神保町弾き語り、ニュースとは

 今月の初めごろに森岡賢さんが亡くなった。同じ訃報でもDavid BowieやPrinceとは意味が違った。13歳の頃に出会ったソフトバレエは閉塞感で腐りそうだった当時の僕の精神をギリギリのところで救ってくれた。『INCUBATE』『Million Mirrors』『Form』の3枚のCDは今でも手の届くところにある。ソロアルバムの『Question?』も好きだった。  それまですべて断ってきたコメントの類だったが、同じく藤井麻輝さんとのユニットminus(-)のファーストの発売の際に依頼されたときにその自分ルールを破ってまで寄せさせてもらったほどに、ソフトバレエは自分の遺伝子に組み込まれている大切なバンドだ。  挨拶しようとおもえばできるタイミングは幾度とあったが、ついぞ交流はなかった。なんとなく、それで良かったと思う。彼の音楽はまだ生きている。

 縁起でもない話だが、僕に何かあったとき、訃報はできるだけ伏せてもらうことにしたいなと思った。他人に好き勝手に人生を総括されるなんて耐えられない。亡くなってしまえば関係ないといえばそれも真実だけれど、音楽の意味あいが歪められるのはつらい。音楽は音楽。たかが音楽。

 11日に神保町三月の水のオープニングパーティーで弾き語り。青木ロビンさん(downy)と藤井友信さん(music from the mars)と。ロビンさんは言わずもがな、初対面の藤井さんとても素晴らしかった。プログレやらジャズやらオルタナやら色んな要素はあるけれど、印象としてとてもナチュラルで、しっかりと生活の匂いがしていて心地よかった。新作もバンド形式なので弾き語りと音は違えど、印象はほとんど同じでとても素晴らしかった。  三月の水はロビンさんが内装を手がけた店内、とても居心地がよかった。THE NOVEMBERSケンゴくんのデザインしたロゴもかわいい。ただ、ネットに店の情報が全くないので営業形態が不明である。  楽屋で三人でいろいろ話したけれど、僕が最近考えていたことと同じようなことを藤井さんもロビンさんもすでに考えていて、裏付けられたようでなんだか嬉しかった。自分の基準を持っている人と話すのはシンプルに気持ち良い。

 しかし世の中は本当に気持ち悪いことになってきている。  ネットにしてもテレビにしてもニュースの下劣さは国民性の下劣さの反映でもあるとは思うけれど、それ以上の危うさを感じることが多い。  毎日、機器に電源をいれようものならニュースがあたかも自然の産物のように流れてくる。当然、ニュースはそよ風でもなければ雨樋を伝う雨でもない。意志を持った人間が行動して発信している。そうでなければ、ニュースというものは存在しない。すべては意図的なものだ。  僕はメディアが他人の生活やSNSでの発言をニュースにする行為の気持ち悪さに心底ゾッとする。意志を持った個人が、別の個人の生活を無許可で表沙汰にする権利なんてあるはずがない。そしてそういうときに標的になるのは当然、弱い立場にあるものだ。  ニュース、報道、メディア、政治家の態度、そういうものを目の当たりにして少しでも自分がバカにされていることに気付けないと、もう終わりだと思う。

 正解というものは自分のなかにしか存在しない。外から与えられたぱっと見素晴らしそうな正解はすべて偽物だ。けれど、世の中はどんどん多様性を否定する動きになってきている。

 それでも人生は素晴らしい。そう思う瞬間は決してなくならない。料理は美味しいし、友人たちの子供は元気だ。紫陽花は美しいし、交わされる会話は面白い。ポールサイモン(73歳というのも興奮するが、プロデューサーが82歳というのがさらに最高)の新譜も素晴らしい。

(20160615)