上田岳弘『ニムロッド』

 

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

第160回芥川賞受賞 ニムロッド

 

 作者の上田さんはタイトル『ニムロッド』をPeople In The Boxの曲名から取ったという。それを受賞会見で聞いて驚き、大変に嬉しかった。それはなぜかというと、僕が以前より上田岳弘の一読者であり、別の分野でのほぼ同年代の作家として尊敬していたからだ。まずピープルを聴いてくれていたことも驚いたし、公言してくれたことも更に嬉しかった。とはいえ、いうまでもなく当然のことだが、内容に関してはまったく同曲とは別のものなので、僕自身、読み始めたときにはそれらのトピックは完全に意識外にあったということをことわっておきたい。

 わざわざ野暮ったく前置きを書いたのには理由があって、ひとつはタイトルがピープルの曲名に紐づけられ話題になったことはどうでもいいくらい作品が素晴らしかったこと。うまく形容することは到底できないけれど、まさしく物語というかたちでなくては表現できないことが、ふさわしく美しい造形で表されていると思った。これまでの上田さんの作品のなかで最も好きかもしれない。

 そしてもうひとつは、僕の受け取った限りで、この『ニムロッド』という作品に、もし総体として表そうとしているものがあるとすれば、また世界に向かって投げかけているものがあるとすれば、おそらくいままさに制作中のPeople In The Boxの次の作品のとものすごくシンクロしている。モチーフや筋書きというよりは、根っこのようなところが極めて近い気がする。完成、発表を経て結果的にそうはならないことも可能性としてはあり得るけれど、まだ作品が出来上がっていない現段階で、そのシンクロニシティーに戦慄したことを書いておきたかった。

 上田さんと僕は、表現方法は異なるものの、似たような入射角で時代をみているのではないかと感じた。同じ時代に共鳴していると感じられる作品に出会えたことがとても嬉しい。僕も頑張らなくてはと、背中を押される気持ちになった。