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 十代の頃に通っていた地方の小さな音楽スタジオには、ロビー兼バーカウンターのようなスペースがあって、練習の終わりにはそこでひととおり談笑して帰るというのが習慣になっていた。当時のバンドでは遅い時間に練習することがほとんどだったので、閉店過ぎてもダラダラとカウンターに居続けることもよくあった。

 そこの経営者のおじさんのひとりはちょっと偏った音楽観をもっており、僕とたいそう話が合わなかった。楽曲構造に興味がある僕の好きな音楽を「全然なってない、なにしろギターが全然歌ってない」と一蹴し、マイケルシェンカーやマウンテンのLD(かつて存在したレーザーディスクという映像メディアで、要はでかいDVD)を流しながら、「聴け、ギターが歌ってる」とのたまう、大変めんどくさい人だった。

 それはタメやビブラートを駆使して歌うようにメロディーを弾くギタリストが優れているという、それは考え方というよりももはや好みの問題でしかないだろうとその当時は心の中で僕もまた彼を一蹴していたのだが、リスナーとして成熟していくなかで、「ギターが歌う」という彼の言葉の意味を次第に理解していく羽目になった。

 彼のいう「ギターが歌う」というのはギターの弾き方で歌を真似るということではなくて、正確に翻訳すれば「歌を歌うくらいに自然にギターの演奏が脳(感情)に結びついている」ということだったのだろうと思う。ロックギター好きらしいロマンティックな表現をするからわかりづらいだけで、むしろ他のジャンルならば楽器習得の上では普通に目指すところというか、身も蓋もない言い方をすれば「脳→指」の反応速度の話でもあったのだろう。

 

 なぜか去年になって、突然VAN HALENを聴いてみようと思い立った。あまりに有名なアーティストだと好きな曲はいくつかあったりもするわりに、本腰を入れて聴いたことがないという現象はよく起こるけれど、僕にとってまさにそんなバンドだった。ひととおり聴いて、個性的な音像や独特のグルーヴやヘンテコな曲など、まあとにかくいろいろと凄いと思ったのだけれど、なによりエディの鮮烈なギタープレイは凄まじく、記号でしかなかったギターヒーローとしてのエディが実力のあるプレイヤーとして肉感をもって立ち上がってきた。めちゃくちゃギターが歌っていると思った。

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 なかでもこの曲のギターソロのタッチはとんでもない領域へと手をかけていないと弾けないテイクだと思う。特に最初のソロ。音の立ち上がり、アーティキュレーション、トーン、そしてタイム。最初の2小節だけでもう正気かと疑う。
 譜面に落とせばあまりにシンプルなメロディーと、それに見合わない多くの情報量。これは当然考えてできることではないのと同時に、常にとんでもなく細かい解像度で音と接しているのだろう。
 あまりに好き過ぎて、この曲のギターソロだけで誇張なしで軽く100回は聴いたと思う。少し走ったり、少しつんのめったり、少しシャープしたりフラットしたりしながら連続していく表情豊かな演奏は何度聴いても全く飽きない。

 こんな数分に出会えるから、ほんとうに音楽は凄いと思う。