9月

 9月は自分のわりと周辺にある音楽に触れて感じることが多かった。

 8月末日に初めてGEZANのライブを観た。すごくよかったけど、何がどういいのかよくわからなくて、ずっと尾を引いている。音は大きかったけど、音楽は静かな感じがした。マヒトゥ・ザ・ピーポーのソロと音は全然違うけど印象はほとんど同じだった。とにかくよかった。これから変わっていくのがとても楽しみ。

 Plastic Treeの竜太朗さんのソロの作業。僕の作業はほとんど終えてはいるものの、歌録りにお邪魔する。その日すでに録り終えたものに対しての僕の不躾な意見にも、嫌な顔ひとつせずに耳を傾けて実践する彼の姿を目の当たりにして、すごく背筋が伸びた。そして声!コントロールルームのスピーカーで聴く竜太朗さんの声の存在感にエンジニアさんと驚嘆しきり。まだ全ての作業は終わっていないけれど、波多野裕文としてしっかり関わった音楽として胸を張れるものになる。

 Jacob Collierの来日公演を観に行く。当日から3日ほど前に存在を知って驚愕し、滑り込みでブルーノートへ。マルチプレイヤーという触れ込みは器用貧乏や曲芸になってしまうようなリスクもあるけれど、そんな次元を軽く飛び超え、音楽の喜びそのものを音楽にしてしまったような、そんな祝祭感に溢れたステージだった。視覚的にもわかりやすく奇抜な技術やギミックを用いながらもそれらのトピックが瑣末なものに思えるほど、音楽そのものの魅力が軽々と勝っていく様子は圧巻。Jacobの人間的な奥行き、どんな人生を歩んできたかとかそういった背景が一切見えないのも清々しかった。

 ピープルのアコースティックツアーへ。アコースティックだからといって聴き手を癒すつもりは一切なし。アザーサイドじゃない、丸裸でステージに立ち、声と指が弦を弾く音だけでどこまで行けるかの戦い。神経が張り詰めて、それはとても生きた心地がして、いい気分だった。いまだに初めての自分たちに出会える体験ができている。毎回違った「海はセメント」が印象的だった。新曲「動物になりたい」もアコースティックでやった。  下はツアーのBGM。

 ツアー中に発売されたdownyの6thアルバムを買った。実はギターの裕さんからファイルで頂いて、一聴してはいたのだけれど、それ以前から買おうと決めていた。繊細で挑戦的で豪胆で情緒的。エグみも込みで美しい。downyの音楽は錬金術みたいだ。一貫した雰囲気はあるのに全曲それぞれ着地点が違うし、まさしくdownyという作品なのに、過去の作品を聞き直すと全然違う。生き物が成長するように自らを更新していく姿勢はとても刺激を受ける。

 THE NOVEMBERSの新譜『Hallelujah』も発売された。彼ら自身からも、彼らの周囲からもマスターピースを完成させた高揚感がとても伝わってくる。僕も凄く嬉しい。作品には思い描くイメージを具現化したいという情熱に溢れていて圧倒される。とにかくソングライティングの突進力が凄い。説得力に満ちている。

 ピープルの曲作りプリプロダクション。いくつかある新曲は特に今までとは変わったことはしていない。けれども新しい景色を観に行くような曲ばかり。  僕は曲を作るのが楽しくて仕方がない。時間はかかるし、困難もあるが、単純な話、まさにその曲作りにかかる時間と困難が、楽しくて仕方がない。作曲を楽しめる人は、人生をさほど辛く感じないんじゃないかと最近思う。僕はさほど辛くない。作曲みたいな人生を送っているからだろう。

と同時に、音楽を作りたくないときには絶対に作らないと、ただそう決めた。それはうまくいってる。つまり僕に音楽をオーダーできる資格をもつのは結局は僕自身だけだという確固たる事実にいまさら行き当たっただけなのだけれども。  音楽が料理だとして、鍋が音楽家だとして、僕の場合は火力を滅多なことでは強火にしない。常に強火でかけた挙句に料理は焦げつき、鍋は焼けついて使いものにならなくなりそう、という例はたくさん聞くし頻繁に見る。強火でいきたい気持ちもわかる。強火を求められる空気も理解できる。みんな簡単に強火を煽るし、本人も陶酔できる。けれどもしばらくすれば、まずは料理が、そして鍋がその寿命を終えてしまう。それが悪いことだとは思わない。でも僕はそんな荒っぽい真似は誰よりまず自分のために絶対しない。適正な火力で自分が美味しいと感じるスープをたくさん作りたい。つうか単に、弱火でコトコトやってるその過程が一番生きてる感じがして、楽しいでしょうが!

 月の中頃、空中ループの松井くんに誘っていただいて原宿のレフェクトワールというパン屋さんで弾き語り。同年代でサシでの打ち上げも盛り上がった。次は京都での再会を約束。  この日、フランスパンの固さに耐え切れず僕の軟弱な歯が欠けたことは言えなかった。

 北海道へ、ソロツアーの追加公演。朝の飛行機で向かい、昼夜の2公演をこなすというハードスケジュール。  5年ぶりのムジカホールカフェは居心地もあいかわらずよいものの、5年前の緊張や演奏の拙さへのリベンジマッチの気分も少しあった。そして昼と夜それぞれの部は演奏の感じが自然とガッツリと変わったのが自分で面白かった。

 北海道から帰ってきて、映画を貪るように一挙に7本観た。物足りない。

 group_inouが活動休止を発表した。音楽性もスタンスも、どこにも属さずマイペースを貫く活動にはとても共感していたので、単純に寂しい。 ふだん活動休止に対しては冷淡なほうなので、正直こんな風に思うことってあまりないけれど、全ての決断は前向きなものであると僕は思う。今まで素敵な音楽をありがとうと言いたい。

(20170928)