【Q&A:回答その3】

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気の向いたものからお返事書いております。ご質問は以下の要領でお願いいたします。

hatanohirofumi.hatenablog.com

それでは回答その3です。

 

おはようございます。質問失礼いたします。 波多野さんは、自分が好きなアーティストや音楽から無意識のうちに影響を受けていて「ああ、自分は〇〇に影響を受けていたんだな」とそこで初めて気付くというようなことはあるのでしょうか?

(無地さん)

 

 とてもあると思います。どんなにオリジナルなものを目指してはいても、好きで聴いていたものからの影響から逃れるというのはどうしても難しいのではないかと思います。特に10代から20代の初め頃に傾倒していた音楽は血肉化しているといっても過言ではありません。僕がある意味ラッキーだったのは、Sonic YouthJeff Buckleyなど、そもそも意識的に真似るのが難しい人たちの音楽を聴いてきたことです。そのおかげで著しく誰かに似てるといわれることはなくやってきました。

 ただものすごく困るのが、もっと具体的なところで、過去にある曲を聴いたことを忘れていて、それを自分が作ったと思い込んでいるケースがごく稀にあることです。あるとき、Policeのアルバムを聴いていて、ピープルのある曲に酷似したリフが聴こえてきたときには頭を抱えました。僕がそのアルバムを聴くのは、どうかんがえても初めてではなかったからです(笑)。真似したわけではないので厳密にいえば違うのですが、印象がほとんど同じで、自分では即座にわかりました。それ以来、ひらめきのように曲が降りてくるときは、まず初めにそれを疑います。同時にそれに気づけるかどうかは運のようなものでもあるので、ある意味では開き直ってもいます。

 同じような理由で、近いシーンの人の音楽はあえて意識的に聴かないこともあります。無意識であれ似てしまうとシーンが均一化してしまい、俯瞰で見渡したときに誰も得をしないからです。

 

ウイルスの影響でライブやイベントが中止になり、ピープルも含め音楽業界全体で損失が免れない状況になってきているかと存じます。 ニュースなどで倒産してしまった会社や飲食店なども出てきている現状を知ると、ミュージシャンは大丈夫なのだろうか?と僭越ながら心配に思うことがあります。 SNSを見ていると私だけではなくファンの間でも心配の声が上がっており、グッズを購入したりサブスクで曲を聴くなど微力でも何か力になりたいと動く方を見かけます。 お聞きしたいのは、実際のところ今回の騒動でミュージシャン自身や周囲のスタッフさんが生活できないほどの致命的なダメージは受けていないかということです。 また、我々ファンができることやファンに望むことがあれば教えてほしいです。 不躾な質問失礼いたしました。

(さちさん)

 

 大変な世の中になってきました。今回のことで職を失うひとも多いでしょうし、景気そのものが落ち込むことによって、いま不利益を被っている業種以外の分野でも影響が出てくると思います。この先も急激に良い方向に向かうということは考えづらいと思います。まわりの音楽関係者やミュージシャンと話すかぎり、いくら危機的とはいえ、やはりそれぞれに考え方も違い、状況や立場も違うので、こればかりは僕が代表して何かをいうことは当然ながらできません。

 僕の個人的な一音楽家としての考えなので、一般的な考えではないという前提でお話しすると、まずはそうした心配をおかけしてしまって申し訳ないというのがひとつ。そして力になりたいという気持ちを素直にありがたく思います。本来ならばこうした状況でミュージシャンこそが音楽を通じてリスナーに元気を与えるべき(もちろん内的な複雑な過程を経て)だと思っています。

 他方で、そうした危機に生活者として声を上げなければならないというのもまた事実です。もちろん日本政府へ向けてですね。そこに関しては業界の隔たりなく、なおさら個々が主体としてどう考えるかという局面だと思います。

 ただ、リスナーに望むことということになると、やはり別の話になってくる気がします。僕はあくまで個人的にですが、生活者である部分と、音楽家である部分を、音楽家自身が同一化して打ち出し、なにかの根拠として用いることは、そもそも論理的に無理があると思っています。演奏をして音楽を聴いてもらう、作品を聴いてもらうということへの対価以外はリスナーに求めることはない、という職業としての建前を崩すことになってしまうからです。僕にとってはその理屈を通せなくなることの方が、先々作品を作っていくにあたって枷となると考えています。あくまで「建前」という言葉を使うのは、グッズのような音楽以外の部分ではすでに事実上サポートを受けているからです。

 ちょっと説明がまどろっこしくなってしまいましたが、僕個人としては、「非常時だから」という理由でリスナーにこれまで以上の負担を強いるわけにはいかないとというのが結論です。生活者という点では同じである以上、あくまで対等であろうと努めたい。

 ですので、たとえば「断念した公演の払い戻しをしないことでサポートになる」という筋の通らない話などにはどうか乗らないでいただけると嬉しいです。

 また単純な結論となりますが、ライブ公演が難しい現状、これまでにリリースしてきたPeople In The Boxの作品がこの時代にどう聴こえるか、これまでと違ってどう聴こえるかを楽しんで頂ければ、それに勝るよろこびはありません。
 そして再び公演ができる世界になった暁には、各地でお会いしましょう。

 さちさんと同じく「サポートするにはどうすれば?」というご質問は、他にもいくつも頂きました。心からありがたく思います。

 

 

波多野さんはじめまして。 僕は高校生なのですが、いずれは音楽(バンド)で生計を立てることを目指しています。 参考にお伺いしたいのですが、波多野さんはどのぐらいの時期にバイトも辞めて音楽一筋、という感じになられたのでしょうか。またバンドマンの給料事情もざっくり教えて頂きたいです。 下品な質問で申し訳ありません。

(いけりん。さん)

 

 いけりん。さんは高校生とのことですが、2倍の長さの人生を生きてきた僕からはっきりと言えることは、こんなご時世に音楽、しかもバンドで生計を立てようと思うべきではありません。

 人というのは自分で思っている以上に客観的になれない生き物です。僕はバンド活動を始めた当初、自分の作る曲はキャッチーだからすぐにバカ売れするだろう、なりたくもないのに金持ちになってしまうだろうと考えていました。結果はご覧の通りです。

 質問に「バンドマンの給料事情」という言葉がありますが、それは「昼の夜空の星の輝き」くらいの語義矛盾です。バンドマンには給料はないと考えるのが一般的に自然です。本当です。

 音楽は職業ではなく生き方です。その上で、儲かる人は儲かります。儲からない人は儲かりません。なんであれ、がんばってください。応援しています。