波多野裕文 - The Cheat(2000)


波多野裕文 - The Cheat (Audio Only)

 

 昔に録音したもののなかには、手元にあるものとないものがある。僕が10代後半の頃はまだパソコンが高価だったから、4Trackのテープレコーダーから専用のデッキでCD-Rに録音し、人に聴かせるでもなくただひたすら保存するということをやっていた。それなりに録り貯めたものはハードを移行していくなかで取り出せなくなったり、どうでもよく感じたりで失ってしまったものが多い。今思えば面白い習作満載だったのでもったいないことをしたと思うが、仕方がないと思うほかない。

 この19歳くらいの頃に作った『The Cheat』は残っている音源のなかで今聴いても感心してしまう部類のものだ。

 これは同名の無声映画を部屋に投影しながら、リアルタイムにギター演奏を重ねていくというコンセプチュアルな録音。2本目のギターと3本目のベース(こちらはドラムスティックで叩くだけ)は映像だけでなくあらかじめ録音された1本目のギターに対しても反応して演奏している。僕はかつてこういうことを恥ずかし気もなく真剣にやってしまう19歳だったのだ。とても未熟で稚拙な作品だけれど、今の自分がいつのまにか失ったものが確かに刻み込まれている。それを取り戻したいとは決して思わないけれど、少しだけ悔しくも感じる。