九州一周、大久保弾き語り

 ピープルツアーの九州編は公演が一日おきずつだったので、のべ2週間の長期遠征となった。九州の独特の地勢のためか、九州人はあまり県間の行き来が少ない気がする。僕自身福岡に住んでいた頃には幼少期の家族旅行を除けば他県んへと行くことはほとんどなかったので、九州をぐるりと回るというのはそれ自体が貴重な体験だった。関東の人は九州というのは遠方の大きな島という感じでとらえているのだろうか。人生の半分以上を福岡で過ごしてきた身としては、いまだに地図の中心を自然と九州においてしまう気がする。車で走った実感としては九州は山を中心としてそこから都市が放射状に広がった広大な島だと思った。無骨でかっこいい土地だと思う。対象化した視点で見たことが今まではなかった。  月のはじめに風邪に由来する咳を拗らせて喉を壊してしまったので、前半は気持ちに余裕がなかったが、ラストの福岡にさしかかるころには、演奏を楽しむことができるところまで、声をぎりぎりコントロールできた。自分の演奏に内容をしっかり盛り込むことができた気がする。  自分の声という楽器の安定感のなさには時々ほんとうに落胆させられる。そのせいで演奏が楽しめない状態というのが最も音楽家としての寿命を縮める気がする。  最終日の福岡では新譜の発売を発表した。これから2ヶ月が長い、、。  翌日はキャンペーンデイ。前日から福岡は梅雨というのが信じられないほど晴れていて、とても気持ちいい。  この日から新譜『Talky Organs』の取材も始まる。昼一番で伺った西日本新聞の記者、僕の父より幾らか年下くらいの年齢とみえる方が、歌詞をどう受け取ったか、主観ですが、と前置きして話してくれたのだけれど、その深い洞察には作り手として冥利に尽き、強い感謝の気持ちでいっぱいになった。大げさでもなく感動してしまった。それに応えたいという気持ちから、普段話さないような種明かしや自分と歌の距離感をどのようにとっているかというスタンスを一生懸命話した。ずいぶん率直に話した。  相手が誰であれ本気で自分の仕事をする人が僕は好きなんだと思った。

 そして昨日は大久保カフェアリエで弾き語り。今年の1月に青山月見ルで灰野敬二さんと共演した際に知り合ったお二人、かとうみほさんと山崎怠雅さんとの企画。この日はノーマイク、つまり生音での演奏。古民家の微かな残響のなかで歌う。ごまかしの効かない環境はスリリングでもあり、根源的でもあり、とても貴重な経験になった。  人前での演奏ではずいぶんご無沙汰だった小さなガットギターで歌った。声が小さいので、声の出どころが地面からできるだけ高い方が響いていいだろうと思い立ち上がって歌った。ストラップのないガットギターを持ち上げながらだったので、弾きにくかったけど、それもなんだか楽しかった。  おふたりの演奏もそれぞれ気持ち良かった。特に山崎さんのギター演奏には惚れ惚れした。終演後はブリティッシュフォークの話で盛り上がって楽しかった。

(20150701)